はじめに

2019.04.14 [ Edit ]

 当サイトは漫画『BANANA FISH』の二次小説のサイトです。アッシュ×英二と、シン×英二を書いています。リバなしです。
 BL的な表現やR18があります。ご理解の上でお読みください。不快感や嫌悪感をお持ちでしたらすぐに引き返すことをお勧めします。
原作漫画のネタバレがあります。原作漫画を未読でアニメだけを見てここへ来た方は、できれば引き返してくださいませ。よろしくお願い致します。

<当サイトの小説の傾向について> ほとんどが長い続き物になっていますので、右側のカテゴリを選んで頂くと順序良く読むことができます。
A英 アッシュ×英二……アッシュと英二のif小説。永遠に幸せな二人を書いています。カリブで暮らすアッシュの元へ英二がやって来るという設定です
S英 シン×英二……主にシン視点です。切ない系です。十四歳のシンが英二と出会ってから光の庭を経て、さらに長い年月を共に過ごしシンが天に召されるまでを書いています。最後はアッシュも出てきます

(裏庭S英)……シンと英二の新婚生活なR18。幸せなシンが書きたかったのです。

ネットマナーに関するサイトを下にリンクしてあります。

*創作系のサイトの管理者との、ネット上でのお付き合いの仕方を書いてあるサイトです。ご参考までにリンクを張りました。一読していただければ幸いです。
(でも下記のサイトに書いてあるマナーが全部正しいかどうかはわかりませんし、他にも参考になるサイトは多々ありますのであくまで一例として、という気持ちです)
創作サイトとマナーと。

広告対策

2018.10.01 [ Edit ]

ご訪問ありがとうございます

New Year's resolution

2017.01.06 [ Edit ]

 シン英です。ご注意を

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Oneday 7

2016.11.08 [ Edit ]

(英二視点。少々暗いです)
「Oneday 6」の続きです

日が暮れて
街灯がともりだした舗道をたどり、僕らは家路を急ぐ。
繋いだ手は温かく、そこから君の想いが僕の方へ流れ込んでくるようで
とても安心できた。
「腹減ったなあ」
君がつぶやく。
「夕飯なら作ってあるよ」
「今日は何だい?」
「君が好きなものさ」
「んじゃ、中華かな」
他愛もないやりとり。
ふたりで食事をして、それからソファでテレビを見たり、ちょっとお酒を飲んだりして
僕らの日常は、まるで仲の良い兄弟だ。

そう、最初は兄弟のように暮らしていた。
たまにやってくる彼に食事をだしてやり、調子はどうかと尋ね、泊まりたければ部屋を貸した。
数年はそんな風に、互いに距離を置いていた。
けれどある時、僕らは一線を越えてもっと親密な仲になった。ごく自然に…
シンは、僕に「14のガキの頃からずっと、俺はあんたが好きだったんだ」と言い、
僕は「知っていたよ」と、シンに答えた。
そして彼の想いを、すべて受け入れたのだった。
僕らは、親友であり、肉親のようであり、恋人のようでもあり
互いに心の片隅に傷を抱えつつ、その傷の核心には触れないように気を使い、いたわりあって暮らし始めた。

僕の傷――。
中学高校大学と、僕は棒高跳びの選手だった。
高校では全国2位になり、将来はオリンピックに出場するかもしれないと、周りからも両親からも期待されていた。
己の才能と努力次第で大きな夢を掴める場所に立っていた。
けれど怪我をしてスランプに陥って跳べなくなってしまった。
目標が消えたあと、自己嫌悪と虚無が僕を包んだ。あの頃、僕はひどく不安定だった。
これからどう生きたらいいのか、答えが見つからなかったんだ。

伊部さんに連れられて渡米したのは、アメリカに行けば自分が変われるような気がしたからだった。
僕は日本から逃げた。そしてNYで、アッシュと出会った。
アッシュを救いたい、助けてあげたい
僕は懸命だった、自分の抱えてきた悩みがちっぽけに思えた。
彼の幸せと二人の友情こそが、僕にとって最も大切で価値あるものになった。
たとえ遠く離れて暮らしていても、きっといつか再び会える。
それが僕の心の支えになった。壮絶な人生を生きてきた君と、友達になれたことを誇りに思い、自分なりに強く生きようと思った。
NYで、やっと見つけた答え。
だけど僕は、僕の書いた手紙で……。


僕の心は、再び自己嫌悪と虚無に包まれた。
それからの数年をどう生きていたのか、よく思い出せない。
「君にもしものことがあったら、僕は狂っちまうよ」
昔、そんな意味の言葉をアッシュに言ったことがあったけど
アッシュを失ったあと、僕はその通りになったのだろう。
医者と薬のおかげで、なんとかまともなレベルにまで回復して
やっと人間らしい時間が回りだして
僕は仕事をみつけて
永住権を取って、ひとりで暮らし始めて
気が付くと
いつも傍にシンがいた。
いや、正確にいうと、シンがずっと前から僕の傍にいてくれたことに、やっと気が付いた。
彼の辛抱強く不変な、惜しみない献身のおかげで
僕はこっちの世界に戻ってこれたのだ。
その間に、シンがどれほど傷ついたのか計り知れない。なのにシンは常に変わらぬ優しさで僕を包んでくれた。
だからある夜、シンが抜き差しならぬ様子で、
「一度だけ、あんたを抱きたい」と言った時
僕に断る理由なんてなかった。
シンの温かな抱擁
冷たく凍えた心が、やわらかく解きほぐされていくような
愛情といたわりに満ちた夜
同性から受ける初めての行為が、不思議と少しも嫌じゃなかった。
むしろ気持ち良かった。
それは相手がシンだからなんだと、僕は改めて思った。
自分でも知らぬ間に、シンの存在が僕の心を占めていて
年月を重ねるごとに大きくなっていた。

僕はシンを好きになっていた。
抱かれても構わないと思えるほどに。




「英二?」
すぐ横で呼ばれて、ハッとした。
「あ……シン、なんでもない。ちょっとぼさっとしてただけ」
もう家に辿り着いていた。
シンは意味ありげにニヤリと笑った。
「メシ食ったら、さっきの続きする?」
僕の返事を待たずに、シンは玄関のドアを開け、入ると同時に素早く僕の腰に腕を回した。
シンの手からバディのリードがするりと抜けて、閉じたドアに挟まった。
(ワンッ!!)
置いてけぼりになったバディが、ドアの向こうで吠えた。
「あ、いけね」
言いながらも、シンはドアを開けるのをちょっと待って僕に長いキスをした。



*バディ、受難の日なり。
(ワン、ワン!バウッ) こら~~~! ぼくを締め出すな~~!


Fin.



Oneday 6

2016.09.20 [ Edit ]

 十月になると、日暮れがずいぶん早くなる。
 石畳にひたひたと足音を響かせて、寒いNYの冬が近づいてくる。
 グリニッジヴィレッジの通りに、乾いた風が吹き、街路樹はしきりに葉を落とし始めた。

 夕方のバディの散歩。
 今日は君が早く帰ってきたので、ふたりで家を出た。
 君がいると、バディはホントに嬉しそう。飼い主は僕なのに、ちょっと悔しいな。
「風が冷たいや」
 手が冷えてくる。
 そう小声で呟いたら、君はさりげなく僕の手を握って、そのまま自分のジャンパーのポケットに入れた。
 大きくて温かい手。
 この手に僕はずっと、もう何年も守られてきた。
 反対に僕は、君を、何かから守ることが一度でもできただろうか。
 そうであってほしい。
 見上げると、肩ごしに、背の高い君と目があった。
 君はじっと僕の瞳を見つめて、それから
「やべぇ」と、ひとこと言った。
 何がやばいんだ?
 ポケットの中の、繋がれたままの僕の手は強い力でぎゅっと握られて、そのあと君の親指が、僕の手の甲を何度も上下して優しく触れる。
 僕の肌触りを確かめているように。
 君は、歩きながら少しかがんで、僕の耳に囁いた。
「あのさ、英二」
「何だい」
「キスしたくなった」

   *

 陽が沈みかけた公園のベンチに、ふたりで腰掛けて。
 君は右手にバディのリードを持ったまま、左手で僕の肩を抱いて。
 僕の唇に優しいキスを落とした。
 
 僕らは男同士だけど、NYではそんなこと誰も気にしない。
 公園を散歩する人たちは、僕らの横をただ通り過ぎてゆく。
 
 溜息とともに唇を離して、君は、キスの余韻で掠れた声で僕に尋ねた。
「クリスマスは、日本に帰っちまうのか」
 君の湿った唇が、僕の首すじへと移る。
「うん、たまには顔見せないと、母さんが泣くからね」
「それで泣きつかれて、気が付いたら見合いとかしてたりして」
 僕はびっくりする。
「するわけないだろ、何言ってんのさシン」
「冗談だよ。でも正月過ぎてもこっち(NY)帰ってこなかったら、マジで迎えに行くからな」
 君は広くて温かい胸に、僕の頭を押し付けて、
「それとも、いっそ飛行機キャンセルして、俺の傍にいれば?」
 なんて言う。
 僕の髪に、顔を埋めながら。

 君には、本当にもう……まいっちゃうよ。
 年下の可愛い恋人に、いろんなところを大きな手で撫でられて、
「ん、シン…だめだよ、こんなところで……」
 あんまり気持ち良くて。
 恍惚として。



「ワン!」
(お腹すいたんだけど!)

 僕らは、バディに怒られた。
  
 
 
 

アーちゃんの初恋(後編)

2016.08.10 [ Edit ]

続きです。時間は数年たって、「光の庭」の一年後から始まります。

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アーちゃんの初恋

2016.08.08 [ Edit ]

アーちゃんの物語です

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59th St. (6)

2016.08.07 [ Edit ]





 ジーンズのポケットから、玄関の鍵を取りだしてドアを開けた。

 中は暗く、ひんやりした空気が、ぼくを包む。

 誰もいない部屋。
 ここ一か月ほど使われていなかった。

 リビングの照明をつけ、ぼくはソファに倒れこむように座った。
 ジャケットの内ポケットから、黒く重い塊を出して、ローテーブルの上にゴトリ、と置く。
 それは、アレックスからもらったコルト銃で、初心者のぼくでも扱いやすいオートマチック式の拳銃だった。

 手首が痛い。
 こわばった指先は火薬の臭いがし、髪には硝煙が染みついている。
 ぼくは、毎晩、ダウンタウンの空き地で銃を撃つ練習をしていた。
 アッシュを救いだすために。

「ごめん……母さん」
 目の前の銃を見つめて呟いた。
 ぼくは、これで誰かを撃ち殺すかもしれない。
 警察に捕まったら、ぼくは犯罪者だ。
 きっとニュースになる。TVや新聞に載るかもしれない。

 いや、ぼくのほうが、あっけなく撃たれて死ぬかもしれない。
 その可能性のほうが高い。

 だけど。
 これでいいんだ。
 ぼくはもう何も考えない。
 ただアッシュを取り戻すことだけを考える。

 明日、作戦は決行されるのだ。

 もう何日もろくに眠れていない。
 明け方にうつらうつらして、アッシュの夢ばかりみる。
 夢のなかの彼は、ひどく儚げだ。
(アッシュ!)
 叫んで、手を伸ばして……そこで目が覚める。

 ぼくはソファからのろのろと立ちあがり、部屋の棚に置いてあるぼくのカメラと、撮影したフィルムを全部まとめて段ボール箱に入れた。テープで封をして、メモを貼り付ける。
 マックスのいる新聞社に送って、しばらく預かってもらうようにしたのだった。
 またいつかここに住むようになったら、引き取りに行けばいい。
 けれど、そんな日は来るんだろうか。
 もうこれきり、この部屋へ戻ってこられないような気がして、ぼくの胸はきりっと痛んだ。

 ほんの短いあいだ、ぼくはここでアッシュと暮らした。
 どんなに幸せだっただろう。
 ぼくは誰より大切な親友に、魂の片割れに、やっと出会えたのだ。

 家具も食器も触らずにそのままにして、テーブルの銃をジャケットの内ポケットに再びしまい、カメラを収めた箱を抱えてリビングの照明を消した。
 暗闇がぼくを包む。
 部屋のあちらこちらに残された、彼とぼくの残像が幻のように浮かぶ。
 その時、はっきりと思い知った。

(もう二度と、ここへは帰れないんだ)

 ぼくの目から涙が溢れて頬を伝い、ぽたぽたとシャツに落ちた。






 さよなら。





 59丁目のアパートメント。






 今までありがとう。






 ぼくは、もう行くよ。









 カチリ
 

 硬い金属音とともに、玄関の扉は閉じられた。








Fin.

初出:2013年5月7日







59th St. (5)

2016.08.07 [ Edit ]




「伊部さん、ぼくです。英二です」

 オレとマックスが隠れて住んでいたホテルに、ある日唐突に、英二から電話がかかってきた。
それはオレと彼がNYに来てから、やがて一年がたとうとしている頃だった。
「え、英ちゃん? 今どこにいるんだ」
「すみません……ずっと連絡しないで心配かけてしまって。あの、ぼく今59丁目のアパートでアッシュと一緒に暮らしてるんです」
 受話器の向こうの声は、遠慮がちだった。
「そう、アパートのことはオレも知ってたよ。でも元気そうでよかった、すごく心配してたから」
「ごめんなさい。もっと早く電話するべきでした」
(きっとアッシュに止められてたんだな)と、オレは思った。
 気心の知れたマックスでさえ、はじめのうちは彼らの居場所をオレに教えてくれなかったくらいだから、危険な状況だったのだろう。

 オレと英二の観光ビザはとっくに期限が切れていた。それをアッシュが工面して、日本へ帰国する予定だったあの日――英二はいくら待っても空港に姿を現さなかった。
あとで知ったのだが、そのときアッシュはオーサーと決着をつけるため命がけで戦っている最中だった。そして英二はNY市警に捕まって留置所に入っていたのだった。
オレとマックスは英二を捜した。もぬけのからになったアパートメントに初めて行って、部屋に潜んでいたアッシュの手下から英二が本当に行方不明になったと知らされたとき、オレは途方にくれた。
 一度こうと決めたら頑固で、やわらかな外見とは違って無鉄砲なことをする彼の性格はよくわかっているつもりだった。
 オレは何度も彼を連れて日本へ帰ろうとしたし、彼も内心は嫌でも無理に自分にいいきかせて帰ろうとしたはずだった。
 けれど今、彼はもう、オレの庇護を離れてひとりで歩きだそうとしている。

「あの、伊部さん。マックスとふたりでここへ来てくれませんか。アッシュが話があるそうなんです」
「わかったよ英ちゃん、すぐ行くからね」
 オレは電話を切った。

 59丁目のペントハウスのインターフォンを鳴らすと、ドアを開けたのは英二だった。
彼の顔を見たとたん、オレはつい叫んでいた。
「英ちゃん! 元気だったか!」
 彼はオレを見つめたまま言葉をなくして、それからうつむいて頬を赤くした。
「すみません……伊部さん。すみません――」
 ひどく叱られると思ったのだろう、うなだれてしまった彼の肩に手をおいて、オレは息を吐いた。
「まあいい、とにかく無事でよかった」
 そんなオレと英二を、アッシュは少し離れた壁ぎわに立って、じっと見つめていた。なにも言わずに腕組みをして、あの氷のように鋭い翡翠の目を痛いほどオレに向けていた。
 マックスが気をきかせて「まーゆっくりしてってくれよ俊一。ここ俺の家だから」と冗談をいいながらアッシュを外に連れ出してくれなかったら、彼はずっとオレにはりついていたかもしれない。

 コートを脱ぎ広いリビングのソファに腰かけて、オレは英二とふたりきりになった。
「この手の傷、どうした?」
 彼の右の手の平には、治りかけた切り傷があった。ガラスか、ナイフで切られたのかとオレはどきりとした。
「……ちょっと」
 英二はことばを濁して、口をつぐんだ。言いたくないのだろう。
「ハードなことに巻き込まれちゃったな、ン?」
「でも不思議と怖くはないんです……マヒしちゃったのかな」
 オレのそばに突っ立ったまま、英二は感情をなくしたかのように静かな声で答えた。

 ショーターは、彼の目の前で心臓を撃ち抜かれて即死した。あの時の、泣き叫んでいた英二を思いだした。
それ以来、英二はずっとオレのもとを離れてアッシュと一緒だったのだ。
『マヒ』してしまったという英二は、いったいどんな日々を過ごしてきたのだろうとオレは思った。
ゴルツィネ邸から脱出するさいに、マックスは幾人も銃で撃っている。アッシュとともに逃げ出した英二は、きっと更に酷い状況のなかにいただろう。多くの者に狙われるアッシュは、仕方ないのかもしれないがあまりに人を殺しすぎる……。

「安心しろ、もう一人で帰れとは言わないよ。帰る時は――一緒に帰ろう。ケリがついてからな」
 そういうと、英二は瞬いて、やっと少し笑った。
「あ、コーヒーでも淹れますね。気がつかなくて、すみません」
 キッチンにいく彼の後ろ姿は、やや痩せたようにみえた。
 彼もそうだがオレとマックスも、バナナフィッシュに関する陰謀に深く関わりすぎた。もう後には引けない場所へ足をつっこんでしまった。マフィアやCIAはおろかホワイトハウスまで巻き込んでの事件になるとは……。オレはソファに沈みこんで額に手をやった。
(だが、やるしかない)
 湯気のたつカップをふたつ持って、英二がキッチンからもどってきた。
「英ちゃん、ここでの暮らしは辛くないかい」
 彼がこの部屋からほとんど出ず、拘束されているも同然なのがなんとなくわかった。
「いいえ、ちっとも。ぼくは平気ですから伊部さん心配しないでください」
 英二はソファのとなりに座って、コーヒーをすすった。
「ぼく……アッシュのそばにいたいんです。彼は、ぼくにとても優しいんです」
「そうか、英ちゃんがそういうなら、オレはもう何もいわないよ。ただしあまり無茶すんなよ、お前になにかあったらオレはこの国に来た事を一生後悔しなきゃならない」
 英二はうなずいて「はい……」と、素直にいった。


   *

 オレは帰ってきたマックスと一緒に、アパートメントをあとにした。
 誰かにつけられていないか気を配りながら、高級住宅街を歩く。
「なあ俊一、英二となに話してたんだ」
 マックスがオレに訊いてきた。
「いろいろだよ。なぜそんなこと聞くんだ」
 マックスは(ふふっ)と口の端で笑った。
「いや、アイツがなー。さっきレストランで俺と話してて、どうも上の空でさ」
「あいつって、アッシュかい」
「そうだよ、なんか考え事してぼーっとしてさ、俺の話しをまるで聞いちゃいないんだ」
「へえ、めずらしいな」
 あのアッシュが? と、オレはちょっとびっくりした。
「きっと気になってしかたなかったんだろうよ。おまえと英二のことが」
「えっ?」
 マックスはおもしろそうに言う。
「日本に帰ろうって、おまえが英二を説得してんじゃないかって、アイツ……心配だったのさ」
「そんなこと言ってないさ。今さら無理だって英ちゃん見てたらわかるよ」
 マックスはコートのポケットに手をつっこんで、ひとりにやついている。
「かわいいヤツさ、あいつも」
 つぶやいて、マックスはオレに笑いかけた。
「さあ、帰ってビールでも飲もうぜ、俊一」
 振り返ってアパートメントを見上げると、夕暮れの最上階の窓に、暖かい明りが灯っていた。



Fin.

初出:2013年5月2日

 
 





(おまけ)

アッシュと英二、夕飯を食べながらの一コマ。


「アッシュ」
「ン、なんだよ」
「どうかしたのかい? なんか君、不機嫌だね」
「べつに。元々こういうツラだ」
 英二、首をかしげる。
 そして(ははーん)と思い至る。
「伊部さんだろ? 伊部さんのことが気になってんだろアッシュ」
 アッシュの眉がぴくんと跳ね上がる。
 天然ボケの英二にしては、今日は勘がいいようである。
「……イベと何話してたんだ、おまえ」
「やっぱり、気になってるんじゃないか。ああでも心配しなくていいよそんなこと。ぼくは日本に帰らないから。
 そうじゃなくてさ、アッシュがね、ぼくに優しいって話を伊部さんとしてたのさ」
「おれが? おまえに優しい?」
「うん」
「ベッドで?」
「わーーーーーーっ!なっ何言ってんだよ」

 真っ赤になる英二でした。

 ちゃんちゃん♪

59th St. (4)

2016.08.07 [ Edit ]







 摩天楼に陽が昇ると、セントラルパークの樹々の緑が生き生きと輝きだす。
 僕はその風景を見るのが好きだった。

 
 隣のベッドには、まだ当分起きそうにない彼が、毛布にくるまって眠りをむさぼっている。
 僕は身支度を整えてキッチンに行き、自分のための朝食を作り、彼の分の昼食の下準備をする。
 ざっと部屋の掃除をすませたあと、僕はこのアパートメントの一階にあるトレーニングジムへ行く。ここには小さいけどプールもあって、一時間ほど泳いだあと筋トレをして、マーケットで買い物をして部屋に帰るのが日課だった。

 僕はこの暮らしに何の不満もなかった。
 いや、一つだけ、嫌なことがあった。
 それは彼がなかなか帰宅せず、まんじりともできずにたった一人でベッドに膝をかかえて、彼が無事に帰ってくるのを待つ夜だ。
 彼が怪我をしたらどうしよう。
 死んでしまったらどうしよう。
 ソファでついうとうとして、悪い夢をみてしまったときは、胸が張り裂けそうに悲しくて苦しかった。

――神様、どうかアッシュを守ってください。

 僕にできるのは彼の無事を祈って、そうして待つことだけ。
 ホントに情けないな。
 彼は僕に何度も「日本へ帰れ」といったけれど、僕は帰らなかった。
 帰れなかった。
 傍にいたかったんだ。
 彼が、好きだったんだ。

 彼はとても優しい。そして信じられないほど綺麗だ。
 その美しく整った顔で、時おり彼は、僕をじっと見つめることがあった。
 なぜか、すごく――胸が痛くなるほど切ない表情をして。

 僕は彼のために、部屋のカーテンをすっかり開け放つ。
「アッシュ、もう起きなよ。お昼になっちゃうよ」
 寝ぼけた彼が、うっすらと目を開けて、宝石みたいに澄んだグリーンの瞳をゆるゆるとこっちに向ける。
 そこに映る自分を見るのが、僕は好きだった。
 彼は照れて、すぐ横をむいてしまうけれど。






 アッシュ



 アッシュ……










 あのアパートメントには、僕らの永遠があったね。









   Fin. 


初出:2013年

59th St. (3)

2016.08.06 [ Edit ]




 NYダウンタウン。
 その地下にある、うす汚れたバーの扉が(キイー)と、錆びた音をたてて開いた。
 扉の向こうから夜の冷気とともに店内に現れたのは、プラチナブロンドの長身の青年だった。
 それまで話し声でざわついていた狭いバーが、一瞬にしてしんと静まる。
 青年はその身からオーラを発していた。暗く澱んだ空気に満ちた店内が、彼の周りだけ、光の粉が舞うかのごとく明くなる。
「よう、ボス」
「今かい」
 手下のリンクスが声をかける中、青年は泳ぐような軽い足取りでカウンターへ向かう。皆がボスに注目した。
 その後ろに、同じく店に入ってきた小柄な人物が一人いたのだが、彼に気づく者はほとんどいなかった。その小柄な人物は、暗い色の地味なコートを着てフードを目深にかぶり、顔を隠していた。カウンターが近いテーブル席にひっそりと腰かけると、辺りをきょろきょろしたあと両手を伸ばして(ぱさり)と、フードを頭の後ろにやった。すると短い黒髪のすっきりした顔立ちがあらわれた。
 店の隅にいたリンクスの数人が、とたんに剣呑な目つきになった。
「あいつ見ろよ。チャイニーズじゃねえか」
「なんでここに来てんだ」
 黒髪に黒い瞳、子どものようにあどけない輪郭の横顔の、彼の肌は白ではなかった。チャイニーズがリンクスのたまりに来たとあっては、黙って見過ごせない。 ガタリと音をたててリンクスの数人が席を立ったとき、
「よせ。あいつはエイジだ」
 隣のテーブルにいた古参のリンクスが言った。
「エイジ?」
「知らないのか、あの日本人を。あいつには構うな。でないと、ボスに撃たれるぞ」
「どうしてだよ、あんなガキ」
 訝しげな顔で、彼らは浮かしかけた腰を椅子に戻した。

 ボスはカウンターでアレックスと話していた。と、ふいに後ろを振り返って、ボスが小柄な彼にグラスを手渡した。
 ボスが何か言っている。遠くて聞こえないが、(あんまり飲むな)みたいに口が動いた。グラスを受け取った彼は、ボスを見つめてニコリと笑った。
「えっ? おい」
 リンクスの一人が横の男を肘で突いた。
「今、ボス……あのガキに、笑い返さなかったか」
「まさか、そんなわけねーだろ。あの怖ぇボスが笑うはずねえだろ」
 実際彼らは、ボスの笑顔など一度も見たことがなかった。
 古参のリンクスが言った。
「ちっと前だがな、しばらく姿を消してたボスがいきなり帰ってきたことがあった。そんときボスは傷だらけで血だらけだった。けどよボスと一緒に帰ったエイジはまったくの無傷で、かすり傷ひとつなかったぜ」
「ふーん」
「あの頃、ベアーおやじの安ホテルに俺たちは潜んでいたが、驚いたことがあってな。眠ってたボスの頭をエイジがひっぱたいて起こしたんだ」
「ええーっ! あのボスを、ひ、ひっぱたいた?」
「ああ。しかもボスはエイジを睨んで、殴るかと思いきや、そのままフツーに起きたんだぜ」
「……すげえ」
「それからずっと、ボスの側にはエイジがいるのさ」
「いったい何者だ、あいつ」
「さあな」
 リンクスたちは、まじまじと、遠くのテーブルにいる「エイジ」を見つめた。
 そのテーブルへボーンズとコングがやってきて、彼に賑やかに声をかけた。
「あれー、珍しいな英二。おめえがたまりに来るなんてよ」
「英二、おれのテーブルに来いよ。乾杯しようぜ」
 二人ともなんだか嬉しそうで、ごつい顔がニヤけている。
 やがて、アレックスと話が済んだのだろう、ボスが立ち上がって、小柄な彼の横に行き、耳元に顔を近づけてぼそりと何か囁いた。
 彼はうなずくと、またフードをかぶり、ボーンズとコングに手を振った。
「なんだ、もう帰っちまうのかよ」
「またな英二。気をつけてな」
「今度うまいメシ、作ってくれよ。食いに行ってやるから」

 ボスは、バーのきしむ扉を開けて、先に出ていくかと思ったら扉の取っ手を持ったまま立ちどまり、後ろにいる彼を通したあと、リンクスたちを例の氷のような翡翠の目で一瞥して自分も出ていった。


 もし、二人のあとを追って、リンクスの誰かが外に出ていたら、きっと目にしたことだろう。
 ボスが長い腕を小柄な彼の肩に回し、寒い舗道を寄り添いながら歩いてゆく姿を。




 Fin.


初出:2013年4月14日



59th St. (2)

2016.08.06 [ Edit ]




 NYの空に陽が沈みかける頃、アッパー・イーストの高級アパートメントに一人の男がやってきた。
 がっしりとした長身に砂色のダーティブロンド。玄関のドアマンと軽く挨拶をかわす灰褐色の眼には、隙のない鋭さがあった。
 その男――アレックスはさっきボスから電話をもらい「たまり」の酒場に行く前にボスの部屋へ寄るよう命じられた。
 腕時計に目をやる。午後六時。
(この時間なら、コングとボーンズはもう帰っちまってるだろうな。ってことはボスと二人きりか)
 エレベーターで最上階まで上がりながら、アレックスは自分がやや緊張していることに気がついた。
 部屋へ呼ばれるのは珍しいことではない。オーサーとの一件以来、リンクスのしまの外れではヤツの残党との小競り合いがたまに起こっていて、今日の呼び出しもそれだろうと当たりはついていた。
(ま、アッシュなら抜け目なく片付けるだろうけどよ)
 エレベーターの壁にもたれてアレックスは腕組みした。
 彼の、ボスへの信頼は揺るぎがなかった。怜悧な頭脳と判断力、カリスマ性に満ちた統率力は常人をはるかに超えていて、傍にいると底知れぬ恐ろしさを感じることはしばしばだった。しかしその完璧なはずのボスが、最近すこし「おかしい」のではないか、とアレックスは考えてはじめていた。

 ドアの前に立ちインターフォンを押す。
 がちゃりと扉が開き、すきまから顔をのぞかせたのはいつも取次ぎにでる英二ではなく、ボス本人だった。
「入れ」
 アッシュは不愛想にあごをしゃくった。
「邪魔するぜ」
 リビングはしんと静かで、どこか寒々しい。気をきかせてすぐにコーヒーを淹れる英二は、今はいないようだった。
「なんだ? なにか飲みたいのかアレックス。ならキッチンにいけよ、冷蔵庫は勝手に開けていいんだぜ」
「いや、べつに喉は乾いてないから」
 アッシュはぴりぴりしていた。
 ソファで顔をつきあわせ、今後の対処を話しあった。細かく出される指示を、アレックスはひとつも聴き洩らさないよう注意をはらった。
いつか窓の外は薄暗くなり、摩天楼に明りが灯りだした。
「そういえば英二は、どこか行ったのか」
 アレックスは、できるだけさりげなく訊いた。しかしよく考えれば、アッシュがそれを許すはずはなかった。英二はこの部屋で、ほとんど軟禁に近い扱いをボスから受けていたからだ。
「英二は、一階のマーケットに買い物に行ってる」
「ふっ、主婦みてえだ」
 よく我慢してるな、と小声でつぶやいたつもりが、アッシュの耳に入っていた。
「アレックス、おれのやり方に不満があるのか」
 ビクリとして顔をあげると、翡翠の目が冷たく睨んでいた。
「言いたいことがあるならはっきり言えよ。聞いてやるから」
 ふたりの間に、しばし沈黙が流れた。
 アレックスはソファの背にどさりと凭れて、長い脚を組んだ。
 息をひとつ吐いたあと、
「ボス、あんたはいつだって完璧だ。不満なんかあるはずないだろ。ただ……」と切り出した。
 そのあとどう言えばいいのか逡巡していると、アッシュが先に答えた。
「仕方ないだろ。あいつ、どうしても日本へ帰りたがらないんだ」
 アッシュは横を向いて、床の絨毯に視線を向けていた。
「嘘だな、あんたが帰したくないんだろ。ここに閉じ込めてどうするつもりだ。あいつは、このままNYにいたら、いつか殺されちまうぜ」
 アッシュはこちらを見もせずに、静かな声でいった。
「おれが守るから大丈夫だ」
「それじゃあ、あんたが死ぬことになる」
 アッシュはフッ、と鼻で笑った。
「死ぬかよ、このおれが」
「アイツはどう見たって素人だろ、なのに何故そんなにも関わる?おれにはわかんねえな」

 カチャリ。

 玄関のドアが開いて、がさがさと紙袋のこすれる音がした。
「I’m home」
 訛りのある英語がして、英二が帰ってきた。
 アレックスがはっとした時、もうボスはソファにいなかった。

「遅かったな、何かあったのか」
 こわばった声が聞こえる。
「ごめんごめん、マーケットのレジでミセス・コールドマンに会っちゃってさー。夕飯のレシピを延々と教えてくれるんだもん、まいっちゃったよ」
 明るく笑いながら英二がリビングにやってきた。
「あ、来てたんだアレックス。コーヒーでも淹れようか」
 食材であふれそうな紙袋をかかえて、英二はキッチンへ向かう。しばらくすると、コーヒーメーカーのこぽこぽいう音が聴こえて芳ばしい匂いがリビングまで漂ってきた。
「ねえアレックス、夕飯食べていきなよ。集会に行くまでまだ時間あるだろう。すぐ作るからさ」
 温かいマグをアレックスの前に置いたあと、英二はさっき買った日用品を抱えてバスルームの方へ横切っていく。アッシュはソファに座ったまま、その姿を目で追っていた。アレックスは密かに溜息をついた。
 本人はきっと気がついていないのだ。そうした行為がまぎれもなく、たったひとつの真実に結びついていることに。
 アレックスは立ちあがった。
「メシはいいよ英二。おれ帰るからよ」
「え、そうなの。じゃあ気をつけて」
 残念そうに英二は肩を落として、玄関までアレックスを見送った。

 外はすっかり暗くなっていた。
 風を切ってアレックスは歩きだした。

――じゃあ、気をつけて。
 
 英二の言葉が頭に残っている。
 そんなふうに言ってくれる人は、アレックスの周りには一人もいない。アッシュが出掛ける時も、英二はきっとそう言って送り出すのだろう。笑みを浮かべて。
「英二はいいヤツだ。傍に置きたくなる気持ちも、わからなくもない」
 アレックスは足を止めた。
 一服しようとしてポケットが空っぽなのに気がついたからだった。ボスの家のテーブルに忘れてきたのだ。また買えばいいと思ったが、引き返してアパートメントに歩きだしたのは、何かが引っかかったからだった。
 再びインターフォンを鳴らすと、アッシュが出て、アレックスが忘れた煙草の箱をすでに手にしていた。
 じろりと睨まれる。
「悪りぃなボス。あいにく小銭がなくてさ」
 バツが悪くて下手な言い訳をしていたら、英二が小さな紙袋を持ってキッチンから玄関にやってきた。
「これ、コングとボーンズにあげてくれないか。腹へってるだろうから」
「なんだよこれ」
「トーフディップのサンドイッチさ」
(うっ!あのくそ不味い食い物か)
 アレックスは眉をしかめそうになるのを、かろうじて我慢した。
「わ、わかった。たまりで会ったら渡すよ」
 少々重みのある紙袋を受け取りながら、アレックスは英二を束の間、注意して眺めた。
 彼の頬がかすかに上気しているのに気がついて、おや? と思った。その細く白い首すじに、つい目をむける。そこに何かの印がついていないだろうかと確かめている自分に、アレックスは苦笑した。

(なに考えてンだ、おれ)

 英二のシャツの胸元のボタンが、ひとつ多めに開けられているのにハッとしたとき、アレックスの目の前で、玄関の扉は閉じられた。




         
Fin.



*初出:2013年4月4日






59th St.

2016.08.06 [ Edit ]

『59th St.』(1)





 ある時、リンクスのボスから、ボーンズとコングの二人に出された指示はとても細かいものだった。


・急用のない日は必ず59丁目のペントハウスへ行くこと。
・時間帯は、午前中は避け、昼食を済ませた午後から基本夕方までとする。
・事前に部屋へ電話をいれること。
・泥や血のついた服は絶対に着ない。洗濯した小綺麗な服を身につけること。
・後をつけられていないか確認し、入口のドアマンにはきちんと丁寧な言葉で挨拶をすること。

 そして――。

・そのアパートメントの場所はもちろん、部屋で見聞きした全てをアレックス以外の誰にも口外しないこと。
・特に住人の日本人青年については秘密裡にすること。
・以上の指示が守れない場合、制裁を受ける覚悟をすること。





 その日、正午をやや回った時間になって、ボーンズは59丁目にほど近い電話ボックスからボスの部屋へ電話をかけた。
 長くコールしても、相手はなかなか出ない。受話器を持ったまましばらく待つと、やっと、
「Hello?」
 あわてた様子の若い男の声が聞こえた。
「よ、英二。おれだよボーンズ。今からコングとそっち行くからな」
「あ……えーと、ちょっとたてこんでるけど。大丈夫かな、うんいいよ、わかった。待ってる」
 訛りのある英語で答えて、英二は電話を切った。
(なに焦ってるんだ?)
 ボーンズは首をひねって受話器を置いた。


 アパートについてインターホンを押すと、ガチャリとドアを開けた英二は、
「さっきはごめん、電話待たせちゃったね。さあ入って」
 口ぐせのsorryを言って、おれたちを部屋へ招きいれた。
 英二はスウエットの袖とすそをまくりあげて、厚手のコットンのエプロンをつけていた。そのポケットには櫛やシルバーの鋏が入っていた。
「悪いけど勝手に座ってコーヒーでも飲んでてくれるかい。僕ちょっと手が離せなくてさ」
「いいけど、何やってんだおまえ」
 英二は返事もせずリビングを足早に通りぬけて、奥のバスルームへ消えていった。
 やがてくぐもった声が聞こえてきた。

(誰だった?)
(ボーンズとコングだよ。あ、動かないで、耳切っちゃうから)
 ボスと英二の声だ。
(あんまり短くするなよ)
(わかってるよ。しかしきみって猫毛だねえ、やわらかい髪だな)
 チョキチョキと鋏の刃の音がする。
 ボーンズとコングは顔を見合わせた。

「ひょっとして……英二、ボスの髪を切ってるのか」
「信じられねーー」
 あのボスに鋭利な鋏をむけるなんて。
「おれなら殺される」
「おれも」
 バスルームから英二の楽しそうな声が響いてくる。
(さ、できた。ついでにひげもあたってやろうかアッシュ)
(ああ、たのむ)
(もう、本はあとで読みなよ。カミソリは棚の上だっけ。あ、あった)
「かっ、カミソリ~~?」
 あのボスの喉に刃を当ててんのかよ。
「度胸あんな、あいつ」

 英二の鼻歌が聞こえてきた。
(アッシュ、ちょっと上を向きなよ。だから本が邪魔なんだって、泡がつくだろう)
(おまえは、ひげ生えてんのか。つるつるだな)
(あっ、どこ触ってんのさ。こら、よせよ!)
(おまえの髪も切ってやるぜ)
(いいよ、アッシュ下手だもん)
(切らせろ)
(鋏あぶないって、わっ。なにバリカンなんか持ってんのさ)
 バシャアッ!
 派手な水音がした。
 英二の「ぎゃ」という悲鳴がした。
 浴室から濡れねずみの英二が走り出てきて、そのあとをバスローブを羽織ったボスが追いかけて二人で寝室に駆けこんでしまった。

 ボーンズとコングはあっけにとられて眺めていた。

「テレビでもつけるか」
「うん、そうだな。それより冷蔵庫になんか食いもんあるかな」
 寝室からはクスクス笑い声が聞こえてきた。
「お、ピザがあったぜ。コーラ飲むかボーンズ」
 コングはピザをレンジでチンして、ソファに腰かけてほおばった。

 英二とボスはなかなか寝室から出てこない。

「なにしてんだろ、あの二人」
 寝室はひっそりしてしまった。
「コング気にすんな、きょうは平和だってことだ」
「ふーん」
 ボーンズはテレビのボリュームをあげて、ピザをぱくついた。



Fin.




*『Angel Eyes』の中の、アッシュの髭を英二が剃ろうとしているイラストにヒントを得て書いたものです。
 初出2013年4月

改装中です

2016.08.05 [ Edit ]

どうもご無沙汰しています、しらさぎです。
思うところあって、ブログの整理をしようと思ってます。といっても「消す」のではなく「増やす」もしくは「復元」の方向です。ご安心ください。
R18な小説は公開はちとマズイのでブロとも限定のままですが、それ以外は公開でUPします。

毎日猛暑ですね、皆様熱中症にはお気をつけて。

Oneday (5)

2016.02.29 [ Edit ]

シン×英二です。
R18ですので、ご注意ください。




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でも そんな君が好き

2016.02.09 [ Edit ]

バレンタインデーなので、きっと甘いバナナ話しがどこかで読めそうだわ♪と、期待している私です。

アッシュと英ちゃん、お幸せに~~♪
幸せな二人を見るのは本当に嬉しいです。


だけど、しらさぎ的には

シンにも幸せになってほしいのです。
シン月もありでしょうが、そこはやはり英ちゃんがいいなーと。

誰か書いて~~(描いて~~)


ということで。
S×英、バレンタインデー小説。書きました。
裏庭(S英)カテゴリーからお入りください。
二人は恋人設定なので、くれぐれもご注意ください。
受け付けない方は、読まないでくださいね。よろしくお願いします。

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Fly boy (伊部+英二)

2015.08.02 [ Edit ]

「英二の日」2015 記念SS




  『Fly boy』


 初めて会った時の彼は、高校生で、才能ある棒高跳びの選手だった。
 カメラのファインダー越しに見つめるおれの前で、彼は軽々と4メートルのバーを跳んでみせた。

 グラスファイバー製の長いポールを手に、彼は助走をはじめる。
 スピードをあげて一気に踏み切ると、ポールはしなり、彼の身体は重力に逆らってぐんぐん上昇する。
 宙に舞い、倒立して体をひねり、バーを越えながらポールから手を離す。

 そのしなやかで綺麗なフォームを見た瞬間、おれは彼に憧れを抱いた。
 彼になりたいとさえ思った。
 8歳も年下の高校生に、憧れるなんて変な話だが。

 彼は、微笑んでいた。
 空の上で。

 ひとつ間違えばマットから外れて怪我をする、そんな恐怖など微塵も感じさせずに。
 跳ぶのが好きで好きでしかたないという表情をしていた。
 その真っ直ぐでひたむきで、迷いのない強さに、おれはわけもなく惹かれた。

 あの頃のおれは、自分で情けなくなるほど、ぐだぐだでダメなやつだった。
 好きな油絵は才能が見い出せず、かといって趣味で始めた写真にのめり込む勇気もなく。
 恋人とはなんとなくだらだらと関係を続けていて。親に甘えて大学を留年して。
 生活の全てに、はっきりと一本の道筋のついた行く先を決めきれないでいた。

 そんなおれの頭上高く、ひらりと、風のように舞う彼。

(どうして、君は飛ぶんだ?)

(いったい何のために)

(空を舞う君の、瞳に映る世界はどんな風だろう)

(重力から解き放たれ、身体がふわりと浮いた瞬間、君は何を感じるんだろうか)


 地上へ降りれば、彼はおとなしく控えめな、どこにでもいるような印象の、一人の少年にすぎない。
 だけど彼は〝空を跳ぶ″それだけで、おれに迷いなく一つの道を指し示してくれた。



 
 8月。
 今はNYにいる彼に、おれは東京からポストカードを贈った。
 『誕生日おめでとう、英ちゃん。仕事はどうだい、上手くいってるかい。
 困ったことがあれば、いつでも連絡してくれよ。身体にはくれぐれも気を付けて。
 それから、彼によろしく』


                          Fin.


 
 

 


Oneday(4)

2015.07.01 [ Edit ]

久しぶりに、新作書きました。
S英です。甘々です♪

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One day (3)

2015.06.24 [ Edit ]

 グリニッジヴィレッジの、英二のアパートメントにあるシンの部屋に、ダブルベッドを入れてしばらくたった頃のお話です。エロいシンちゃんと、そんなシンにほだされて開花してしまった英ちゃんのいちゃラブエッチをお楽しみください)いやー本当はこれ、私のストレス発散というか楽しみだけに書いて時々読んでたシロモノで、公開するつもりなかったんですけど。ブロともの まみ様のご要望で掲載します。

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Oneday(2)

2015.06.22 [ Edit ]

シン×英二SSです。
BL的な表現がありますので、この先は自己責任で読んで下さいね。

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